お父さんは誰?②授かり婚で生まれた子

こんにちは。また前回から間が空いてしまいました。反省・・・。
さて、前回は、民法772条についてのご説明と、この条文が改正を検討されていると書きました。
では、どのような点が問題とされ、どのような改正が検討されているかを今日はお話したいと思います。

前回、第2項は
①結婚した日(届出日)から200日経過した後に生まれた子
②離婚、または死別した日、あるいは婚姻を取り消した日から300日経過していない日に生まれた子
は、「婚姻中に懐胎したものと推定する」という条文ですよとご説明しました。
この①②のうち、今日は①についてご説明します。
①は、現代の実情にそぐわない条文となっています。
例えば、特に珍しくもなくなった「授かり婚」ですとか、あるいは早産のケースなどを考えると、「結婚した日から200日経過」する前に生まれる子は、たくさんいます。
そうして、そういう子たちは「婚姻中に懐胎したものと推定されない」→「夫の子と推定されない」となります。前回書いた「推定されない」嫡出子になるということです。
戸籍上、特に200日経過する前に生まれた子も、200日経過後に生まれた子も、何ら区別されることはないので、いったい何が不都合なのか?と思われると思います。
実は、法律上の父が、「この子は私の子ではない。」と主張する時の方法が異なる、という違いが生じるのです。
事例で説明しますと、AB夫婦の間に子Cが誕生しました。後に、夫Aが何らかの理由で、実はCは妻Bが他の男性との間にもうけた子ではないかと疑念を抱いたとします。Bとの関係は破綻し、やがて離婚に至ります。Bとの間は離婚によって法律上の関係はなくなりますが、Cとの関係は親子のまま、変わりません。一緒に暮らさなくても、養育費の支払い義務は発生しますし、CにはAを相続する権利もあります。
AがCとの親子関係を否定したい場合、200日経過前に生まれた子である場合と、200日経過後に生まれた子である場合で、方法が違ってくる、ということです。
まず、200日経過後に生まれた「推定される」嫡出子、の場合ですが、民法774条の「嫡出否認の訴え」という方法によらなければなりません。
この方法は、「夫が子の出生を知ったときから一年以内に提起しなければならない」と定められています。ですので、普通の結婚生活を送っていたら、よっぽど明らかに怪しいことがはっきりしていない限り、あっという間に期限は来てしまいます。
これに対し、200日経過前に生まれた「推定されない」嫡出子の場合ですが、「親子関係不存在確認」という訴訟で、親子関係がないことを主張することができます。この訴訟には出訴期間(いつまで訴えることができるか)の制限がありません。ですので、親子として何年も暮らしているのに、突然父がお前は俺の子ではない!と言えるということです。

確かに、自分の子だと信じて愛情をかけて育てていた子が、実は自分の子ではないと知ったら、父はショックを受けると思います。真実を知っているであろう子の母に騙されたと憤るかもしれません。
ですので、そのような場合のために、一応父が子との関係を否定するための手段があるわけですが、では、子の立場としてはどうでしょう。
上記200日経過後に生まれた「推定される」嫡出子の場合、「嫡出否認の訴え」によることになるため、子の出生を知ってから1年以内、という期限がありますので、早期に父子関係を安定させることができます。
しかし、珍しくもない授かり婚や、致し方のない早産により、たまたま200日経過前に生まれてしまったというだけで、いつまでも父子関係が安定しない、というのは、いかがでしょうか。
順番が少し前後しただけで、子の利益が大きく異なってくるというのは如何なものか、という議論があったわけです。
結論から言いますと、この文言は削除される方向で検討されているようです。
つまり、結婚から200日経過前に生まれた子であっても、嫡出推定がはたらき、父が親子関係を否定したい場合、嫡出否認の訴えによることしか出来なくなります。早期に父子関係が安定し、子の利益の保護につながる、というわけです。
長くなりましたが、①についてはここまで。次回は、より社会問題化している②について、お話をしたいと思います。