負担付遺贈の効力は?

こんにちは。
前回は、「私亡き後も兄弟仲良く」というような、遺言の「付言事項」についてお話をしました。
ではもう少し突っ込んで、夫が亡くなった後、妻の身を案じて、子どものうちの一人に全財産を譲る代わりに、お母さんと同居して、お母さんの生活費を支弁して、面倒をみること、というような内容が遺言に書かれていたら、どうでしょうか。
もちろん、託された子どもが、遺言のとおりに母が亡くなるまで、何くれとなく世話をし、不自由することの無いように面倒をみていたら、全く問題はないと思います。
でも、例えば最初は母の面倒をみていたが、そのうち放置するようになり、晩年は寄り付きもしなかった、というような場合はどうでしょうか。
他の相続人としては、遺言に背いて母の面倒をきちんとみなかった以上、この遺言は無効である、と言いたくなると思います。
こういった遺言の内容のことを「負担付遺贈」といいます。「負担」とはこの場合、お母さんと同居して、生活費を出して、面倒をみる。」ことです。この負担を付けた「遺贈(遺言で特定の人に財産を譲り渡すこと)」というわけです。
実は、民法上、この負担付遺贈について、ずばり書かれた条文があります。

民法第1027条 負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。

つまり、もし、お母さんの面倒をみるという負担付で父の財産を譲り受けた子どもが、お母さんの面倒をみるという義務を果たさなかったとしても、その遺言は当然に無効となるわけではありません。
その代わりに他の子どもたちは、財産を譲り受けた者に対し、その義務を果たすように請求すること、そしてそれでも義務を果たさないようであれば、その遺言の取り消しを家庭裁判所に請求することができます。
遺言は、財産を遺す人の意思を相続開始後にきちんと反映することが目的ですので、例え相続人の一人に有益な内容の遺言になっていたとしても、それが悪いわけではありません。
しかし、前回も書きましたように、相続人間に不要な争いをもたらすような遺言は、決して良い遺言とは言えない気がします。
前回ご説明した、「付言事項」に、丁寧に思いを綴るのも、争いを避ける有効な方法でしょう。