お父さんは誰?③無戸籍という問題

こんにちは。
今回は、民法第772条第2項のうち、
②離婚、または死別した日、あるいは婚姻を取り消した日から300日経過する前
に生まれた子の問題をお話ししたいと思います。

まずは事例から。
Bは子Cを出産しましたが、それは元夫Aとの離婚から280日後のことでした。
BはDと交際しており、子のCもBとDとの間にできた子でした。
BDはまだ籍を入れておりませんでしたが、ひとまず子Cの出生届を提出しにBが役所へ行ったところ、父は元夫Aとなります、と言われました。

CがAの子であるはずは絶対にないのですが、今の法律だとCの父はAとされるとのこと。
Cの父をAではなくする方法は、いくつかあるのですが、元夫の関与が必要で、あまり円満な離婚ではなかった場合など、もう元夫と関わりたくないという人には困難な方法や、元夫の関与が必要ではない方法でも、一定の条件に当てはまらなければ使えないなど、いずれにしても簡単ではない方法ばかりです。

そうこうしているうちに、出生届の期限である14日が経過。経過後は5万円以下の過料に処せられる可能性もあるにせよ、別に提出していけないわけではない(むしろしなければならない)のですが、こういう期限が到来してしまうと、人間は何かあきらめというのか、「もういいや。」という境地になってしまうのかもしれません。
こうして、「無戸籍」の人が誕生してしまうのです。

「戸籍」が無いと、日本国籍の人は原則として住民登録ができず、「住民票」が取れません。現行の行政サービスはほとんどが「住民票」を基にして行われているので(記憶に新しいところで、コロナによる定額給付金も原則は「住民票」に基づいていましたよね)、例えば小学校に入学するときにも、住民票に記載がなければ、「存在しない子」のようになってしまい、役所から入学の案内が届きません。文部科学省のホームページの「戸籍や住民票がない場合の就学手続について」という記載のとおり、住民票の無い子であっても学校に行けないわけではありませんが、戸籍に載せないで何年も経ってしまうと、親が積極的に「この子は戸籍に載っていないが学校へ行かせてくれ。」と申し出ることはあまり期待できないように思えます。

このような「無戸籍」の人がどのくらい存在するのかというと、2021年1月10日時点で901名。ただしこれはあくまで「法務省が把握している」数に過ぎず、実際は「少なくとも1万人以上」とも言われています。

 この「無戸籍者」を生むきっかけとなってきた「民法第772条第2項」のうちの「婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子」が、婚姻中に懐胎したものと推定される、つまり前夫の子と推定されるという規定につき、やはり改正の必要があるとして、話し合いがされてきました。

 前回取り上げました、同じ第2項の前段「婚姻成立の日から200日を経過した後」の規定のように、削除の方向性ではなく、「妻が再婚している場合は後夫の子と推定される」という方向性のようです。

 長くなってしまいましたので、今回はこの辺で。次回はこの改正について、今一度問題点や、ポイントについて、詳しくご説明したいと思います。