相続が変わる②配偶者の生活への配慮2

こんにちは。
前回に引き続きまして、もう一つの「配偶者の生活への配慮」という観点での民法の改正点についてお話ししたいと思います。

2.配偶者居住権(第1028条、第1037条)
民法は今回の改正で、第八章「配偶者の居住の権利」という章を新設し、そこで「配偶者居住権」という新しい権利について定めています。
「配偶者居住権」には、配偶者居住権と、配偶者短期居住権という2種類の権利があります。
配偶者短期居住権というのは、簡単に言いますと、相続が発生してから最低でも6ヶ月間は、配偶者はそれまで住んでいた被相続人の財産である家に住み続けることができる、という権利です。
この権利に関しては、もともと判例法理で不完全ながらも認められていたため、今回は割愛し、全く新しい制度の方の配偶者居住権についてお話ししたいと思います。

通常、不動産を相続して住み続けるためには、「所有権」、もしくは権利が「賃借権」の場合には「賃借権」を取得するのが普通です。
「配偶者居住権」は、被相続人が遺言で定めるか、共同相続人が遺産分割で成立させれば、配偶者の終身(または遺言もしくは遺産分割で定められた存続期間)の間継続します。
また、他の居住のための権利同様、「配偶者居住権」はお金に換算することができます。
この「お金に換算することができる。」ことが、この権利の大きなポイントになりま
す。事例を挙げてご説明します。

相続財産として、例えば居住用不動産2,000万円、現金その他の遺産2,000万円があるとします。
これを、残された妻Aと、長男Bの二人で分けるとします。
法定相続分はこの場合、1/2ずつです。
Bは既に家を出て別のところに不動産を購入して住んでいます。
この相続財産である居住用不動産には、今はAしか住んでいません。
ですからBは「家はそのままお母さんが相続すればいいよ。自分は他の遺産をもらうから。」と言ったとします。
Aは、自宅に安心して住み続けることができ、一見良いように思えますが、Aがずっと専業主婦で、特に個人の財産を持っていなかった場合、日々の生活費は年金しかありませんが、十分でしょうか?
また、居住用不動産が3,000万円、現金その他の遺産が2,000万円だった場合はどうでしょうか。
BはAに不動産を譲ってしまうと法定相続分である1/2を取得することができないため、不動産を売却することを検討し始めるかもしれません。
しかし、配偶者居住権をお金に換算することができれば、どうでしょうか。
居住用不動産の交換価値3,000万円を、「配偶者居住権の価値」と「(配偶者居住権という)負担付所有権の価値」に分けます。
仮にこれが1,500万円ずつだとすると、Aは配偶者居住権1,500万円、Bは負担付所有権1,500万円を、そして現金その他の遺産は1,000万円ずつに分けて相続します。
これで、Aは安心して家に住み続けることができ、日々の生活費にも不安を覚えずにすみます。
まさに「配偶者の生活への配慮」という観点から考え出された権利だといえます。
   
注意点として、この権利は登記をしなければ、第三者に対抗することはできません。
負担付所有権を取得した他の共同相続人は、当該不動産を売却することは可能です。
この売却より前にきちんと配偶者居住権の登記をしていれば、所有者が変わっても
住み続けることはできますが、もし、登記を怠っていたら、新所有者に配偶者居住権を
対抗することはできませんので、立ち退きを迫られたら応じなければなりません。
配偶者居住権を取得したら、速やかに登記をしてください。もちろん、ご不明なこと
がありましたらご相談くださいね。